新聞やビジネス誌で毎日のように目にするIoT(Internet of Things)という文字。新サービスの創造や業務効率化が期待されるIoTですが、導入のやり方を間違えると、離職率や残業時間の増加にもつながりかねません。そこで今回は、IoTを導入する際のポイントを、現場の失敗例や成功例を交えてご紹介します。
目次
業務の効率化につながるIoTとは?
IoT(Internet of Things)とは、モノをインターネットにつなぐ仕組みのことです。
コマツ(小松製作所)では、GPSや様々なセンサーによって、全世界で稼働している建機の状況を把握しています。これにより、部品交換時期の把握や、エンジン異常の早期発見が可能となり、修理待ちなどの不稼働時間が減少し、建機を購入したお客様の売上最大化に貢献しています。
身近な例では、スマートフォンで撮影した食事の写真を送ることで、AIがカロリーや糖質、塩分などを計算し、健康のアドバイスをしてくれるというIoTサービスなどがあります。
モノづくりの現場では、設備と人の状況、特に設備の稼働率を「見える化」するためによく使われています。設備の稼働率を知るためのIoTには、アンドン(設備の稼働状況を知らせるランプ)の電気信号など「物理的な信号で把握するもの」と、設備に取り付けた振動センサーの波形をAIが検知、判定する「センサーとAIとを組み合わせて把握するもの」の2つのタイプがあります。
どちらが良いとは一概には言えませんが、設置する目的と、現場の状況を考慮して導入を図る必要があります。
あなたの現場に本当にIoTは必要か?
既存の改善策では解決できない生産性の向上を打破したい、という期待から、IoT導入を検討している企業も少なくありません。しかし、従来に比べて安価になったとはいえ、最低でも数百万円程度の費用が必要なため、決して安い投資ではありません。
IoT市場は、次々と新製品を発売しており、まだまだ成長過渡期です。製品は日進月歩で進化しており、数年後には格段に性能の良いサービスが出てくるでしょう。
そう考えると、他社に遅れまいと全社的に導入して多額の投資をするよりも、必要最低限で導入しつつ、今後の動向を見る、というスタンスが妥当かもしれません。
IoT導入を結果に繋げられる企業とは?
すべての企業にIoTの導入が有効とは限りません。IoT導入が有効な企業の条件は、①1日の製造品種が少ないこと②データを分析、改善できる組織であること、の2点です。
先述しましたが、IoTでわかることは「設備や人の稼働率」です。改善点を探るには、稼働率だけでなく、製品や従業員など、分析に必要な情報を全て紐づける必要があります。しかし、それらのデータを全て紐づけるには多額の投資が必要なため、製造品種が多い場合はコスト増となります。
さらに、稼働率が見えるだけでは、改善につながりません。
稼働率のデータを分析し、具体的な改善策を立て、実行して初めて改善につながるのです。そのためには、ハード面だけでなく、従業員の改善スキルといったソフト面も兼ね備えた改善できる組織であることが重要です。
IoT導入の失敗から学ぶ運用ポイント
ある企業では、作業風景をカメラで撮影後にAIで分析し、人の稼働率を把握して生産性を向上させるプロジェクトを行いました。はじめはおもしろがっていた現場スタッフも、データで管理が強化されると、カメラに写らないところで作業をするようになりました。
別の企業では、10台中5台の設備に稼働率を把握するIoTツールを導入。運用が安定し始めた頃から管理が強化され、稼働率が上がらないと責任者が問い詰められることが多くなりました。するとその責任者は、生産性が高い製品はIoTツールのある設備で生産し、生産性が低い製品はIoTツールのない設備で製造するようになりました。結果的に、数字上の稼働率は上がっているのに、納期遅れ、残業が増加する、という矛盾が生じたのです。
このようなことを避けるためには、データ管理を厳しくして現場を追い込むのではなく、そのデータをもとに現場が改善を図るための「QC(品質管理)ツール」のような形で運用するのがよいでしょう。
朝・夕礼でのIoTデータ活用で全社のPDCAサイクルが改善
IoTを導入したことで生産性向上につながっている事例もあります。
A社では、IoTツールから得たデータをメンバー全員で夕礼時に共有し、設備停止や、生産性低下の要因、改善策などをブレーンストーミングしています。翌日の朝礼でその内容を共有、実行し、夕礼で改善の可否を再度確認する、という流れを継続しています。
その結果、昼休み前に材料を供給したり、設備修繕の見直したりすることにつながり、1カ月で稼働率が5%向上しました。さらに、改善活動にスピード感が出たことで、会社全体のPDCAサイクルが速くなり、後回しの習慣が改善されたことが、経営的にも大きなプラスとなっています。
いかがでしたか?導入の目的をしっかり押さえた上で、あなたの現場に本当に必要なIoTとは何か?を検討してみてください。