2012年8月から10月までの3ヶ月間、某小売店(以下A社)で実施していた店舗事業におけるコスト削減プロジェクトを支援しました。
以前からA社独自で業務改善を行なってはいたものの、なかなか2S(整理、整頓)が定着せず、成果につながらないということで、今回の支援となりました。
目次
職場ルール・管理基準の見える化により、3ヶ月で270万円の削減へ
A社店舗におけるパート社員の稼働時間を調査したところ、パート社員の「手待ち時間」が多いこと、作業計画や作業割り当てが明確になっていないことなどが明らかになりました。
そこで、横浜市の2店舗にて「店舗事業における『職場ルール・管理基準の見える化』支援活動」と銘打ち、バックヤードの2S、レイアウト変更、販促ツール等の定位置管理、部門別KPI(重要業績指標)の設定、備品類の発注点管理等を行いました。
具体的には、惣菜部門でのバイキングの品出し完了時刻と在庫金額のKPIの設定、レジカウンター部門での箸のセルフサービス化、備品在庫の一元管理、備品類の集約などです。
その結果、生産性向上による作業時間が短縮したことに加え、消耗品費が2店舗共に30%減と総額約270万円の削減に繋がりました。
定着しなかった改善活動が短期間で成果につながった理由とは?
これまでなかなか成果が出なかった自社での業務改善と、弊社の支援する改善活動では何が違ったのでしょうか?
毎日同じ人が同じ場所で働くために改善が定着しやすい工場での改善活動に対し、曜日によって人員や作業が異なるサービス業では、2Sがなかなか定着しにくい、という傾向があります。A社でも誰か一人が2Sをやらなくなるとすぐに乱れてしまうという傾向がありました。そこで「誰が来てもルールがわかるような職場づくり」を目指し、ルールの見える化や目標の共有に重点を置いてプロジェクトに取り組みました。A社部門指導担当のK氏は「自社の改善活動では2Sを維持するためにどんな管理、点検を行い、どんな評価をしていくかという「仕組み」が弱かったことが定着、成果につながらなかった原因だと気付いた」としています。
現場は業務をやって当たり前、では育たない
座学的な指導ではなく、実際に店舗に入り、現場の中で問題点を明らかにし、改善を図る支援を行ったことで、現場でのコミュニケーションにも変化が生じ、短期間で驚くほど人が育ったことも特筆すべき点です。
現場で一生懸命働いてくれているパートの方達に対し、本部からの上から目線での指示では伝わりません。「大変なのはわかる」とまず現場の仕事を認め、理解することから入ることが重要なのです。部門指導担当のO氏からは「鍛治田さんが現場でうまく人を褒めているのを見て、自分も人に指導するときにはその人の良いところを探し、伝えるように心がけるようになりました。」という声を頂いています。
一般に日本の企業では人を褒めることが非常に少なく、成果が上がらないと評価されにくいという風潮があります。しかし、当たり前のことを当たり前に続けることは難しいことであり、その活動は目立たないからこそ意識的に目を配り、認める必要があります。日々の日常的な業務の中で、どの活動を増やすと売上が上がり、コストが下がるかを重視してKPIを設定し、当たり前のことを当たり前にやれば評価される職場づくりをすることが、改善活動では特に重要なのです。
自発的に動く現場は待っていても生まれない
A社では、今回のプロジェクトで得たノウハウを全体で共有するために、KPIを「私たちの作業目標」という言葉に置き換え、各店舗で「私たちの作業目標」活動を展開しています。当初は「見える化」の効果に半信半疑だったそうですが、今回大きな手応えを感じたことで、今後は新人教育や年次教育にKPIの講義を取り入れるなど、マネジメント手法の一つとして組織に取り入れていく考えを示しています。
改善は現場から自発的に起こるものだと考える人もいますが、実際には日々の業務に追われているため、なかなか期待できません。最初は多少強制的に活動を始め、組織における改善の風土を築くことが先決です。今回も、最初はこちらから現場への指示という形で始めましたが、そのうち成果が出てくると、現場が自ら考え、他の店舗で試すなど、自発的な活動につながっています。
適正な目標を設定し、それを当たり前に実践し、改善を続けていくことを評価する組織風土を醸成することが、現場力を強化し、自発的に動く現場を作るのです。