経営戦略の歴史はテイラーから始まると言われています。テイラーは作業時間をストップウォッチで測り、生産性の高いやり方、道具を研究しました。その結果、生産性を格段と高めましたが 、労使間の溝は深くなりました。
テイラーは著書の中で「管理の目的は労使の最大繁栄」、「生来の能力の許す限りの最高級の仕事ができること」を目的とし、生産性向上と賃金向上を目指しました。しかし、経営側が生産性向上の成果を労働者に分けることをしなかったため、労使の溝が大きくなりました。
改善前、テイラー がいた工場には「怠業」と「不信」「恐怖」があふれていました。それは、給与体系は本来出来高払いであったにもかかわらず、給与の支払額が増えすぎると管理者が勝手に賃金を下げたからでした。がんばっても手取りは変わらないため、労働者側は、働くだけムダという意識を持つようになりました。
一方、管理者側は叱責や解雇という形だけで管理をしていました。当時の作業のやり方は、好きな大きさ・形のショベルを選んで仕事をし、仕事の仕方もばらばら、やり方が決まっていませんでした。朝、がんばりすぎると、夕方には疲れて生産性が低下し、1日の生産量は多くなりませんでした。結果として生産量をあげるには、負荷のかけ具合が大切なのです 。
現在 、作業改善といえば、最も速いスピードで行うというイメージがありますが、テイラーはきちんと人間を観察した上で作業のやり方を決めていたのです。テイラーがミッドベール・スチールで導入した施策は、次の5つです。
- ①課業管理(タスク管理)
- ②作業研究
- ③指図票制度(マニュアル)
- ④段階的賃金制度
- ⑤職能別組織
これらを導入することによって、一人当たりの生産性は3.9倍、一人当たりの賃金+63%増、生産量あたりのコスト△56%減というすばらしい結果を残しました。
これらを武器に多くの企業を立て直し、その経験を「科学的管理法の原理」にまとめました。これにより、生産性向上と賃金向上が実現するはずでした。しかし、科学的管理法を経営側が生産性向上のみに使い、成果を労働者に分配しなかったことにより、労使間の溝は深くなりました。
テイラーが開発した施策を具体的に紹介します。
目次
①課業管理(タスク管理)
課業管理はノルマの設定です。公平な作業量となるよう、作業研究により、作業量を設定しました。作業の設定は1日で最も生産性が高まる量としました。
②作業研究
作業時間をストップウォッチではかり、道具ややり方を研究して、無理なく、最も生産性の高い作業のやり方を決め、同時に分業化を進めました。
③指図票制度
指図票制度は、現代でいうマニュアルです。標準化された作業を初心者のために作成しました。これにより、初心者の生産性が大幅に上がりました。当時、産業の拡大により若い未熟練工が増加していたので、彼らの教育のため、指図票制度は必須だったのです。
④段階的賃金制度
段階的賃金制度は、ノルマを超えたら賃金が上がる仕組みです。これにより、労働者のがんばりが評価できるようになり、がんばれば報われる環境ができました。本来ならば、これで労使がハッピーになるはずでしたが、実際には、経営側が成果の分配をしなかったので、労使の溝が深まりました。
⑤職能別組織
作業の分業を進めると、作業の計画を作成するなど、管理する機能が必要となり、計画を策定する部門と実行する部門を分け、専門部署を設置しました。
このような5つの施策を行うことで、生産性を大幅に高めることに成功しました。この5つの施策は現代にも有効な施策かもしれません。